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茂夫は絶句した。
リビングへ足を運んだが、そこには大きなショーケースがあった。
何を飾っているのか、近くまで見に行った。
中身は時計だった。
しかも、ロレックス、カルティエ、フランクミュラー、IWCなど名を連ねた高級品ばかりだ。
「これ、どうしたんだ。一体今、何の仕事をしてるんだ」
募りに募った疑問を投げかけた。
「今は仕事はしていない。いや、する必要がないと言った方が正しいかな。みんな優しいからさ、くれるんだいろいろ」
表情に変化はない。
少しだけ声が震えていた。
「『ありがとう』って言えば、みんなよくしてくれるんだ」
単調なトーンで続けた。
「そんなわけないだろ。お前もしかして、クスリを」
茂夫はそれ以上声がでなかった。
隆夫の姿を見れば、良からぬことに手を出していることは容易に想像できる。
「にいさん、にいさん、落ち着いてくれ」
落ち着いた様子で兄を促した。
「これは本当の話なんだ。お礼すれば、みんな必ずくれるんだ。お金も何も払ってないのに」
左手で頭を抱える茂夫を傍に、続けた。
「ベンツが家の外に止まってただろ。あれももらったんだ。庭に立ってる木も、そこの時計たちも、そこの観葉植物も全部」
少し口調が興奮気味ではあるが、依然として無表情だった。
「だけど、もらっても初めは嬉しいけど、そのあと胸のあたりが苦しくなる。なんだか喪失感すら感じる。罪悪感ともいうのかな」
やや虚気味だった瞳が、下へ向かった。
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