サキドリ

13/14
前へ
/14ページ
次へ
「・・・・・・おじちゃん?」 玄関先に立っていたのは、小学1,2年生くらいの男の子だった。 「ああ、君か。なんでここに」 「おじちゃん!よかった。あのね、やっぱりね、僕のランドセル返してほしいんだ。思い出したんだけど、明日先生に出す宿題がその中に入ってるんだ」 「ランドセル?」 もしや、と思い茂夫は隆夫を見た。 「あ、ああ、悪かったね。そう言えば、車の中だ。行こうか」 隆夫はベンツの助手席から、ランドセルを取り出した。 「はい」 男の子に素っ気なく渡した。 「おじちゃん、ありがとう」 男の子は屈託のない笑顔で、隆夫にお礼を言った。 「おじちゃん、またねー」 千切れんばかりに、手を大振りしてから、走って帰っていった。 『ありがとう』 隆夫は何も感謝されるようなことはしていない。 だが、それを言われた時、突如として隆夫の顔に生気が戻った。 顔は肌色に戻り、頬は痩けたままだったが、何かを取り戻したように笑顔になった。 「お?やっと笑えたな」 茂夫も笑顔になり、肘で隆夫の脇腹を軽く小突いた。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加