サキドリ

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「ベンツか。A200?」 近くで見ると、エンブレムがより鈍く、より光っていた。 車にさほど詳しくはない隆夫だが、「ベンツ」 という響きは何よりも好きだった。 「お?にいちゃん。俺の愛車に何してんねや」 こてこてのチンピラが、店から出てくるなり隆夫のいる方へ向かってきた。 「なあ。何してんねやって聞い・・・・・・」 「ありがとう」 「は?」 「車、ありがとうな。本当に」 「お、おお。ええよ。別に」 チンピラは照れ臭そうに、鼻の頭を指で掻きながら、隆夫にベンツのキーを渡した。 隆夫はあたかも自分の所有物であるかのように、ベンツに乗り込んだ。 「にいちゃん、こいつのこと、可愛がってやってーな」 チンピラの顔は見ずに、手を挙げて合図した。
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