サキドリ

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「あの、本当にお願いします。ありがとうございます。あなたには感謝しかしてないです」 「急に言われても」 なかなか折れなかった。 「この通りです」 隆夫は跪いて、(こうべ)を垂れた。 「ありがとうございます」 数秒間、反応がなかった。 さすがに欲張り過ぎたかと、諦めようとした。 「まあ、そんなに言うなら。どうぞ」 隆夫はワンテンポ遅れて飛び上がった。 「ありがとうございます」 その後の展開は早いもので、家主とその家族は一夜にして引っ越しを済ませてしまった。 家具などは全て置きっぱなしにして。 隆夫はベッドに倒れ込んだ。 目の下のクマが酷かった。 息遣いも荒い。 恐らく今日は一日、色々あって疲れたのだ。 そう思い込むようにして、目を瞑った。
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