サキドリ

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「いやあー、本当にありがとうございます」 松浦隆夫(まつうらたかお)は、心底感謝した。 「あの、お代は」 「いやいや、結構、結構。喜んでもらえて何よりだ。その気持ちだけで十分だよ」 叔父で配管工の吉田佳祐(よしだけすけ)は、笑顔で工具を片付けていた。 キッチンの水回りの配管が破損し、隆夫の家は大惨事だった。 「もうダメかと思ったよ。ほんとっ、ほんとにありがとう」 隆夫は感謝の気持ちを上乗せした。 「全く、大袈裟だな」 やれやれというように、甥っ子の肩を軽く小突いた。 「そんじゃ、またなんかあったら呼んでくれい」 佳祐は隆夫に背を向けながら、手を振った。 本当に助かった。 お代はよかったのだろうか。 お代? 隆夫は10秒ほど考え込んだ。 今日の工事の正式な金額が数万だとして、自分はそれを『ありがとう』の一言で支払った? つまり、己の感謝の言葉にはそれだけの価値があるのでは、と隆夫は思った。 「ゆうくん、待ってよお」 近所のハナタレ小僧がきゃっきゃっ騒いでいる。 隆夫は子供の元へ急いだ。 「ゆうくーん」 ランドセルを背負った子供が、友達を追いかけていた。 「ちょっと」 こんな時代に子供に声を掛けるのは危険だとわかりつつも、そうせずにはいられなかった。
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