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「問題、今日はなんの日でしょうか?」
私はいたずらっぽく、私の1番、いや2番のファンに尋ねてみる。
「え? えぇと……」
その人は懸命に思考を巡らせているようだった。
「分からないの? 私の1番のファンは知ってるよ?」
私は少し不機嫌に拗ねてみる。
その人は知らなくて当然だ。いや、その人だけではない。今日がなんの日かなんて、誰も知らないのだ。
私の物語を誰よりも大切にしてしまっている私の1番のファン以外は。
あの日からずっと、誰にも言わずにひっそりと物語を紡いできたのだから。
「……ごめん、誰かの誕生日だっけ?」
「はずれー」
「えぇっと……記念日?」
その人の答えはこの上なく雑で適当で当てずっぽうだ。
まるでいちいち記念日を作って祝ってくる面倒な恋人の対処法のようだ。
しかし、それでも良かった。
誰も知らない、私だけの記念日。私だけがひっそりと祝うことのできる記念日があってもいいのではないだろうか。
まだなんの日なのか分からず、キョトンとしているその人に、私は満面の笑みを送る。
「正解! 今日はね、大切な記念日なの!」
私はスマホを開き、もう慣れた手つきで『公開する』のボタンを押した。
[完]
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