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角を曲がったのんちゃんが急に立ち止まる。
そこにいたのは、三丁目の寿さん家のジェイムス(オスのゴールデンレトリバー犬年齢10歳)だった。
立ち尽くすのんちゃんに気づいたように、だらしなく舌を垂らしたジェイムスは尻尾をブンブン振っている。
もしかして、のんちゃんのこと見えてるの? 動物には見えてるのか?
一方の、のんちゃんはジェイムスに対し、驚いたように固まっている。
脱走癖がある寿さん家のジェイムスとは顔見知りだ。
何度か公園で遊んであげたことがあるし、道で見かけて家に届けたこともある。
寿さんは一人暮らしの婆ちゃんだ。
体の大きなジェイムスを散歩させるのがやっと、だから遊んでくれて助かると嬉しそうだった。
今日もきっといなくなったジェイムスを心配して探しているかもしれない。
「大丈夫だよ、のんちゃん! ジェイムスは怖くないからね、時々脱走するワンコなんだ。おいで、ジェイムス。お家に帰るよ」
いつもならそう声をかけると、嬉しそうに俺に突進してくるジェイムスなのに。
興味の対象はのんちゃん一択だ。
固まるのんちゃんの匂いをクンクン嗅いだ、その次の瞬間!
のんちゃんの帯を咥えて走り出していく。咄嗟のことに何もできなかった俺も、慌ててジェイムスとのんちゃんを追いかけた。
「ジェイムス、止まって! 待ってって!」
無抵抗のまま人形のようにジェイムスに咥えられているのんちゃん。
やがてジェイムスの走りが緩んだのは寿さんが見えた時だった。
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