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「ちょ、ホラ! 潰れちゃってんじゃん!」
朝のニュース番組、映っているのは三か月前に俺が訪れた旅館だ。
東北の奥座敷として知られる温泉街で、江戸時代から続く老舗旅館が業績不振により廃業をした。
ある日を境に軒並みキャンセルが続き、新たな予約が全く入らない状態になった、ということなのである。
「ああ、もうどうすんの?」
俺は知らないからね、と振り向いた先で赤色の着物姿の童がのんきに鼻唄まじりに手毬をついていた。
「話、聞いてるの? のんちゃん」
絶対に聞こえているだろうに俺に背を向けて、そ知らぬ振りを続けるのんちゃんから手毬を取り上げた。
「りょーへー! 返せ返せ! のんちゃんの手毬、返せ!」
頬っぺたをパンパンに膨らませたのんちゃんが、眉間に皺を寄せ俺をグイッと睨み上げてきた。
……全然怖くない、可愛いな、のんちゃん。
いや、そんなことよりもだ。
「見てごらん、のんちゃん! 自分の実家が潰れちゃったようなものじゃないの? これって」
テレビに映る閑古鳥が鳴いている老舗旅館、あれだけ栄えていたのにこんな数か月で没落ってさ?
どう考えても、のんちゃんが俺についてきちゃったからだろ?
「やっぱり、のんちゃんってばあの旅館の座、」
「ちがう、のんちゃんはただの小童妖怪だ!」
まだ、THE、いや『ざ』しか言ってないのに、先を言わせまいとしているようにピシャリと遮るのんちゃん。
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