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俺の本業はしがないミステリー小説家。
でもそれだけじゃ食っていけないからエッセイやコラム、それから旅行ガイドブックの取材記事なんかの仕事を貰って細々と食いつないでいた。
のんちゃんと出逢ったのは3か月前のこと。
ガイドブックの『冬の東北の旅特集』という取材旅行中でのことだ。
部屋の予約は編集者側で押さえてくれているはずなのに、何度確認しても俺の名前がなかった。
老舗の旅館はその日も満室、駅前まで戻ってビジネスホテルにでも泊まろうかと考えたけれど。
取材で訪れていると話すや否や、普段は誰も使っていない離れの立派な座敷に泊らせて貰えた。
『ご夕飯は部屋食になります。お風呂も専用の露天風呂がついておりますので、ごゆるりとお寛ぎくださいませ』
きっと自慢の一番いい膳を出してくるのだろう。
それを雑誌に載せてくれという暗黙の媚びなのか、若旦那のへつらうような愛想笑いが嫌だ。
俺の中では、金をかけた調度品がロビーに並んでいたのと、この若旦那の胡麻擦りだけで相当なマイナス評価ではあったけれど。
『ただし、奥の封をしている部屋は開けないでくださいませ。そこは当旅館の古くからの資料を置いている場所でございますから』
つまりは開かずの間、それに興味が沸いた。
ミステリー作家の血が騒ぐ。
もしかしたら、もしかしたら、その奥に死体が隠されていたりして!
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