想いは遠く、カムチャッカ

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 カムチャッカ半島。  ……なんて響きの良い言葉なんだろう。  カムチャッカ半島が一体どういう所かは全く持って知らないが、声に出した時の語感の良さはトップクラスを誇る気がする。それこそ日本有数の響きの良さだ。  僕は座椅子の上で暫く連呼する。  カムチャッカ半島。  カムチャッカ半島。  カムチャッカ半島。  気持ちが良すぎる。  連呼せずにはいられない。この中毒性は、もしかしたらカムチャッカ半島は麻薬なのかもしれない。  しかしこうも気持ちが良いとカムチャッカ半島そのものにも興味が湧いてくる。どうせ暇なのでインターネットで少し調べてみた。  ロシア領らしい。  さっき『日本有数の』とか思ってしまったが、そもそも日本ではなかった。てっきり北海道のどこかだと思っていた。なんだか恥ずかしくなってきた。別に誰かに言ったわけでもないのに。  そもそもカムチャ『ッ』カなのかカムチャ『ツ』カなのかはっきりしない。もしカムチャ『ツ』カが正式なものであれば、もうダメだ。全然語感がよろしくない。  となると、途端にカムチャッカに対する興味は失せる。僕に恥をかかせた半島などに用はない。寒い所に行きたいのであれば、暖房を切って紅茶でも啜っておけばいいのだ。それだけで極北感は出る。  僕はキッチンの戸棚からティーパックを取り出し、紅茶を淹れた。パックのラベルを見てみる。  オレンジ・ペコー(セカンド・フラッシュ)  ……なんて素敵な響きの言葉だろう。
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