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そんなジュンヤは最近一人の女性を拾った。
金もないのに、地下バーで意識が朦朧とするまで飲んでいた彼女と目があったのが悪かったのだ。
ボブカットの髪に、耳にはこれでもかとピアスを刺している、見るからにあのバーには似つかない風貌であったため周囲の客も彼女に寄り付かなかった。
困り果てていたマスターの肩をジュンヤはそっと叩いた。
「僕が支払いますよ」
マスターには恩義を感じていたこともありそう名乗り出て、彼女を抱え店を出た。警察にでも突き出そうとしたが、顔を真っ青にした彼女をみて気の毒になってしまった。そして、結局家まで運んでしまったのだ。
そんな彼女、エマは今現在ジュンヤの防音室の中で絵を描いている。
「私の話を聞いてくれる?」
連れ帰った朝にジュンヤはすぐに出ていくようにエマに伝えたが、エマは帰る様子はなく、そんなことを言い出したのだ。
「私今、死に場所を探す旅をしているの」
その言葉を聞いてジュンヤは上げていた腰を下ろした。ここまでの話で分かるともおもわれるがジュンヤはお人よしだった。そんなことを言われれば、一応話を聞くだけでも……となる男だ。
「……それはどういう意味だ? 死に場所っていうのは、一生を過ごす第二の故郷を探しているってことかい? それとも、自殺する場所を探しているのかい?」
「自殺する場所の方だよ」
エマはそう言って平然と笑って見せた。
一瞬だけ、ジュンヤは目を細めて彼女を異質な存在としてとらえたが、どうせ今日限りの関係だと力を抜いた。
「だとしたら、すぐにこの部屋から出ていくべきだ。こんな古臭い街で君の死に似合う場所なんてないよ」
「えぇ、でも。その前に絵を書かせてほしいの。水彩画。ほんの数日でできるから。一週間もかからないわ」
「絵?」
「うん。多分、あの店に道具を置き忘れてしまったの。あとで、謝りに行くついでに取ってくるわ。でも、道具があっても書く場所がない。だからお願い」
「いや、でも。絵を書けるような場所ここには……」
エマが防音室を指さした瞬間。ジュンヤの心に諦めの思いが出た。確かに、あの部屋であれば提供できるし、物置にするよりも幾分有効活用。
彼女を同情する想いよりも、あの部屋への申し訳なさが強かった。
ジュンヤはエマの滞在を許可してしまった。
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