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「んで、なんで自殺の旅なんて?」
ジュンヤはそっち話は信じてはいなかった。絵を書きたいっていうのは本気な気がしていたが自殺をしようとしている者がそんな行為にでるか? という疑念があった。
絵がかきたいのなら、まだやりたいことがあるのなら。死にたいと思うことは無いのでは考えている。
彼も音大時代に、厳しい生活の中にいたし、何度も死にたいと思ったが、やることがたくさんありすぎたし、夢があった。だから、いっそ死んでしまいたいと刹那的に思うことはあっても、そんなことを口にしたり行動に出したこともない。
現在の惨めな日常の中に居てもだ。
「私は、絵がうまいです。とってもうまいです」
エマは、棒とした声で演説をするかのように語り始めた。
「コンクールで賞をたくさんもらいました」
「小学生」「中学生」「高校生」「大学生」そういいながら、指を何本も折っていく。
「でも、一度も大賞や金賞をもらったことがありません。絵を目指す人はたくさんいて。絵を楽しむ人は少ないです。そんな中で、大きな賞の一つも持っていない私は必要もされません」
自虐気味に笑いながら彼女は続ける。
「『ハッキリ言って才能がない』。それが私の人生、二十年間の答えで、じゃあ死のうかと思って旅に出ました。でも、最後に。死ぬ前に、何か書いてから死のうと思いました。――完!」
言い終わるや否、エマは自分で「わー」と言いながら拍手をした。
「……それって、結局死ぬ気はないけど、死ぬ気分で絵を書きたいってだけなんじゃないか?」
そう言ったジュンヤの脛に鋭い蹴りが入った。
こうして、エマはジュンヤの防音室に引き込もり絵を書き始めたのだった。鶴の恩返しのように、「絶対に覗かないでください」と笑いながら言って。
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