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結局ジュンヤがエマを追い出せなかった理由は、自殺しようとしているとか、何かしらの同情の感情があるわけでもなかった。
ただ、自分と重なって見えたのだ。昔は、認めてもらえていたのに、オトナになったとたんに見捨てられた。結局あの日々は何だったのだろうか?
ジュンヤは未だに夢を見ている。本気をだして『歌ってみた』を作れば再生を得られるだろう。そして、人気になってゆくゆくは大きなステージの上で、声を張り上げて歌うのだと。
そう言った妄想。それは彼女にとっては、死にゆくものとして人生最後の傑作を書くというストーリーであったのだろうと。
そんな身勝手な共感でジュンヤは彼女を受け入れた。
家に、拾ってきた女性がいる。そんな異質な現状ではあるが、ジュンヤの日常に変化なんてなかった。職場に行って仕事をして、帰ってきて食事をしてシャワーを浴びて寝る。
エマは金を持っていないかと思っていたが、ただあの日は引き下ろしていなかっただけのようで、食事は自分で買ってきていた。
会うことはほぼ無かった。エマは本当に、防音室の中に引きこもり続けていた。だんだんとジュンヤの中にある嫌な考えが浮かび始めだしていた。
(もしかして、あの部屋の中で自殺してないよな?)
絵を書くのにそこまで大きな音は出ない。ただでさえ防音の部屋。外側だと中に人がいるかは判別がつかない。
彼女がやってきてから四日後のある日。夕暮れ時にジュンヤが家に帰ってから就寝時間まで一切彼女が防音室から出てないことに気づいた。
思わず、そっとその扉を開けようとした。
しかし、そのあともう少しと言ったときに。玄関の扉が開いた。
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