星屑の女神

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 ジュンヤはチェーン店スーパーの従業員として一生を終えるような男では決してない。  小学生の頃から、歌うことが好きで地元ののど自慢で三冠(さんかん)をとり、中学生の頃は地域の社会人合唱団に混ざり、高校時代はネットに()れて『歌ってみた』の動画を友人と共に作成して投稿していた音楽に青春をささげた男だ。  再生数が伸びず、彼は(さら)に実力をつけるべく音大を受験して合格した。名のある大学ではなかったが、(いきお)いだけは他大学に引けを取らず、特にジュンヤが入部した声楽部はまるで囚人生活のように(きび)しい毎日が待ってた。  そんな生活だったため、『歌ってみた動画』の作成なんてできるわけもなく、モクモクと実力をつけていく日々であった。遊びも知らず、ただただ声を張る日々。  いったい何の手違いだったのだろうか。ジュンヤの未来は多岐(たき)にわたり、満員御礼の大ステージで歌声を(ひび)かせる未来もあれば、動画投稿サイトで百万再生を連発する大スターになってもおかしくはない。  それなのに、ジュンヤは三年もスーパーで働いている。動画を作るために借金をして部屋に防音室まで作ったが、未だに再生数が伸びずに段々物置になりかけている。  一応地域の合唱団に入ってはいるが、練習は週に二回、二時間程度で講演も月に一回あるかどうか。  それでも、ジュンヤは自分の歌を(あきら)めていなかった。  彼が流れるままに辿(たど)り着いた先は、シャッター街となった商店街の地下バーだった。地下にしては広く、ダーツやビリヤードを(たしな)むことができる、お酒を飲む場所言うより大人の遊び場という雰囲気があった。  そんなバーの中には小規模なステージがあり、そこでは毎夜毎夜、平均年齢五十五歳のジャズバンドであったり、商店街の楽器屋の店長のピアノ演奏だったり、バイオリン教室のマドンナ清水先生のリサイタルだったり。音楽が()きることが無いのだ。  日中、この街は何処か(さび)しく(うつ)る。スーパーで働くジュンヤはそれを痛感するのだかが、このバーに来ると毎夜それを忘れてしまう。  そして、終末。金曜の二十二時。ジュンヤはこのステージで歌唱を披露(ひろう)する。そんなかしこまったものではない。ご当地演歌歌手のようなものだ。そんなものがいるのかは分からないが、その言葉にぴったりな現状がジュンヤには(もう)けられている。  いつの間にか、そこがジュンヤの居場所になっていた。幼き日に勝ち得たのど自慢三冠の先がこんな暗い地下バーに続いていると知っていたら、ジュンヤはどうしていただろうか。そして、この先の道はどうなるのだろうか。  彼は未だに答えを出せずにいた。
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