19「卵の行方」

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19「卵の行方」

城に戻り早歩きで歩き、自室に向かう通路である曲がり角に差し掛かった瞬間、目の前が真っ白になった。 「「 っ! 」」 私の方が一方的にぶつかってしまったようで、相手は勢いに負けて尻餅を付いた。 散らばった洗いたてのタオルを見た後に、卵の安否を確認してから、相手へと視線を落とす。 「 す、すみません!大丈夫ですか? 」 「 いたた……ふぁ、あ、これはシェリー様!大変申し訳御座いません!! 」 私がぶつかったのにも関わらず、メイド服を着た使用人はその場で深く頭を下げた。 シェリーが怒るような人物だったのか?と疑問になるぐらい、動揺している様子に戸惑う。 「 謝らなくて結構ですよ。私も不注意だったので……お顔を上げて下さい 」 余り立場を気にしたような言い方はしたくないけど、この言い方でしか反応しないように思うた為に言えば、やっと彼女は顔を上げた。 「 ですが、片付けに急いでたとは言えどシェリー様にぶつかるなど…。どうか、命だけはお助け下さい 」 「 あ、いや…… 」 其処まで言われるとずっと大丈夫だと言っても引き下がらない気がする。 それなら何か良い方法は無いか?と思い、彼女を見れば背中に鳩のような羽を持ってるのをいい案を思い付いた。 「 では、私にぶつかった代償として、少し話に付き合ってくれるかしら? 」 「 はい、もちろんです! 」 「 これを持って、私の部屋まで来なさい 」 落ちているタオルを一枚拾い上げ、彼女に差し出してから歩き出せば、彼女は直ぐに残りを拾って着いてくる。 殺す必要が無いからと……話に付き合わせるのもちょっと申し訳ないけど、男達に聞くよりずっとマシだと思った。 彼女の名前はイドニア・アンナ。鳩と思っていたけど、正にその通りらしい。 この城の使用人であり、母親は王妃の元に居るらしく、家系がずっとその立場だそう。 「 お話とは、お産みになった卵の事なのですね。ちょっとお見せして貰っても宜しいですか? 」 「 あ、うん。どうぞ 」 クスリと微笑まれて、彼女はタオルを畳み直していた手を止め、私の方へと両手を向けた。 散々、布で拭いたからいいかな?と思い卵を差し出せば彼女は1つを手に取る。 「 この凹凸のあるのは余り宜しく無いですね。カルシウム不足と、ストレスから来るものでしょう。同時刻に産んだ残りも、無精卵だと思われます 」 「 やっぱり…そうなんだ…… 」 「 アドラム様との婚約について、悩んでいた御様子でしたので…それがストレスとなり、こういった卵になってしまったんですね 」 アドラムとどういった関係で、好意を持っていたのかは、ゲームの中で少しだけストーリー上に話が出てきただけで余り実感が無い。 私自身には全くの好意が無いからこそ、今ここでも悩んでる方がストレスとして感じると思う。 「 そうかもね……。ねぇ、もし…卵が無精卵の場合…貴女はどうする? 」 「 よく産む方又は、食用専門で販売をし、それを仕事にしてる方は食べてもらいますが……私達のような使用人が産む場合は、ゴミとして捨てるか、土に埋めますね 」 「 あ、そうなんだ…… 」 やっぱり食用にする卵はそれを仕事にしてる人がいる事を知って意外であり、納得が出来た。 牛乳もまたその仕事をしてる人からの提供かな、と思うとちょっと複雑な気はするけど有り難いと思うのが消費者側なんだろうね。 納得して頷いていれば、イドニアは焦ったように訂正をする。 「 あ、私共のような価値の無い卵であって、シェリー様の場合はオスの方々に食べてもらうのがベストかと思います 」 「 へ?なんで? 」 「 無精卵とは言えど、卵には良き栄養が含まれています。好意のあるオスに食べてもらって性欲をつけて、今度こそは有精卵にしてもらうのです! 」 拳を握り締めてキラキラの笑顔で言った彼女に、 何故…あの3人が其々に食べる事を頷いたのか納得出来たけど。1つ疑問がある。 「 でも、羽がある者は卵を食べる事に拒否反応が出るのでは? 」 「 それはオスの場合、同族の肉だけです。卵は無縁ですし、逆に欲する方もいらっしゃいますよ。メスは…自身で産むので卵や肉も食べれませんがね 」 「 あぁ……そういうこと 」 野生の鳥と同じようなものなんだと思った。 自分の子供は襲わないけど、他の子供なら襲って食べて栄養にする。 だから、彼等が無精卵と知って手に持っていようとすることも本能なのか。 「( よくよく考えたら、鳥だもんね…… )」 バルドも、結局は鳥(馬)なんだ。
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