01「やっと、死んでくれたね」

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01「やっと、死んでくれたね」

「 っ……… 」 学歴も功績もいい、それにて会社の中で一番モテると噂されている歳も近い上司の説教を食らった後、 オフィスの仕事はいいから、と外回りの営業に着いてこいと言われその上司に嫌々連れられ、 会社の車に乗り、次の場所へと自動車道を走り向かう最中。 反対車線の車が運転ミスをし曲がり損なったのか、 その結果、黒塗りの高級車が勢い良く、中央分離帯を飛び越え此方へと向かって来た。 普段はテキパキと動き判断能力が早い、隣で運転していた上司すら、避ける程の反射速度が間に合わないほど、 ハンドルを切ろうとした時には、強い衝撃と共に乗っていたポンコツ車は横風を防止するフェンスを突き破って、 私達が乗っていた車だけが、奈落の底ではないが崖の下へと転がり落ちた。 「 ゴホッ…… 」 車の動きが終わった後、やっとどこが痛むのか正確に分からないまま、全身が痛む事に眉を寄せぼんやりと横で吐血する上司に気付き、視線だけ向ければ、 衝撃と共に出てきたエアバッグが萎んだあと、彼は頭や鼻から血を流しハンドルへと手を当てた。 視線を落とした先には、フロントガラスを突き破っていた木の太い枝が、彼の腹に刺さっていた為に、ひゅっと密かに息を飲む。 「 ぁ゙…っ… 」 「 動かない、方がいいですよ……お互いに…内臓が…グチャグチャ、みたいだから…… 」 徐々に痛覚が鈍ってきた為に、痛みはさほど感じなくなり喋れる程度になれば、彼は口から血を垂らしこの状態でも口角を上げた。 「 最後に……一番、くそ…みたいな、部下の顔見て…死ぬなんて、な… 」 「 こっちの、台詞ですよ…。貴方も…十分、クソでした…… 」 吊り長の瞳を細め、腹に突き刺さる木の枝に触れた彼は、その手を離し私の明日の方向を向く手へと滑らせた。 「 ッ……最後ぐらい、素直になりゃ、可愛げ…あるのに…… 」 「 だれの、教育で……捻くれたと…… 」 22歳で入社した時には既に上司であり、仕事が出来ないと散々ガミガミ言うくせに、他の社員の女性にはニコニコして愛想が良かった。 それが余りにも腹が立って気持ちとは裏声の言葉を言ってたら、いつしかオフィス内で犬猿の仲と言われるぐらいになっていた。 「 すまない……、ムキになる、御前が…可愛かったんだ…… 」 「 はっ、なにいって……っ、ゴホッ…ゴホッ…… 」 ぶつかった衝撃で押しつぶされた内臓に折れた肋骨が突き刺さってるのか、喋るだけで激痛が走る。 噎せ返る咳と共に血を吐けば、上司は此方を向き笑みを零した。 「 なに、って……俺はずっと…お前が好きだった…… 」 「 ………え? 」 その瞬間、時が止まったように頭の中が真っ白になった。
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