第一章 金髪紫眼で塩撒く悪役令嬢編 <1>

1/1
前へ
/174ページ
次へ

第一章 金髪紫眼で塩撒く悪役令嬢編 <1>

ーーーいやぁ、我ながら油断してたとは思います。 その上、最近自動車会社がせっせと開発し、競って発売しているハイブリッド車とかいうアレ。 エコはいいよ、確かに地球に優しいよね。 でもあれ、実は人間にあまり優しくないんだ。 まず買う時にお値段がかなり高い。そしてバッテリーの交換費用もバカ高い。 ……お金の話ばかりですみません。仕事柄の性分なもので。 とにかく、1番のデメリットの一つが。 エンジン音が(ほとんど)しないんです。 静か過ぎて、背後からだと近づいても人に気づいてもらえない。 つまり、歩行者とか自転車からすると車の存在自体に非常に気づきにくい。 普通の車なら後ろから来てもあ、車来たなって思えるところが、気づいたら真後ろまで近づいててヒヤッとしたことありませんか? 「あの日」。 わたしはシティバイクとマウンテンバイクをミックスしたような、買ったばかりのクロスバイク(自転車です)に乗って新規契約のアポを取ったお客様の元へ伺うところでした。 勤め先は大手の生命会社。長らく派遣扱いだったけど、仕事ぶりが認められて春からは晴れて正社員になれることが決まっていました。 そして、ピカピカの新しい自転車。そりゃあテンションあげあげ↑でお宅へ向かいましたよ。 ……なんで営業なのに車じゃないのかって? 免許持ってないんだよわたしは。察せよ。 それでも持ち前の口の巧さで、営業成績はいつもトップクラス。 その働きを認めてもらえて嬉しかったし、舞い上がってもいた。 やって来た街は少し道の入り組んだところで、方向音痴気味のわたしは慌てず路肩に愛車を止めて、スマホで位置を確認していました。 ーーーその時。 背後から誰かに覗き込まれているような気配がして、咄嗟にばっと振り向いたんです。 ……誰もいなかった。そこには。 いや、正確にはなんかいた。絶対いた。 わたしは昔からいわゆる「あっちの世界の存在」が見えてしまう体質でした。 だから背後からちょっとジーってされたくらいで、大して驚きはしないんです。 「あの日」。お客様のお宅の位置を、もう一度確認し。 さっき通り過ぎた交差点から一本道を戻ろうと、ハンドルを反転させた時でした。 『しね』 ーーー至近距離から、唸るような声が聞こえました。 それはとても暗くって黒くって。発した誰かの顔を確認しなくても分かるほど、深い憎悪に満ちたことばでした。 「ーーーうわっ!!!」 漕ぎ始めていたクロスバイクが急に車道側に投げ出され、わたしは自転車ごと横倒しに倒れました。 何かに突き飛ばされたみたいだった。 咄嗟に右手をついたおかげで、それほど酷い怪我はしなかったんだけど。 プワーーー!!!! 途端に、真後ろから凄まじい音量のクラクションが響きました。 振り向いて見たのは、エンジン音が静か過ぎて全く気配に気づけなかったーーー黒のハイブリッド車でした。 ーーーわたしの身体は撥ねられて、大きく宙を舞ったことまでは覚えています。
/174ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加