191人が本棚に入れています
本棚に追加
<5>
ーーー現状把握完了。
わたしは改めて自分の顔を手鏡で見て、それから手足も見た。
この身体の少女ーーーアリスは確か今15歳だったはずだ。そしてもうすぐ、16回目の誕生日を迎える。
身体にはあちこちに包帯や湿布のようなものが巻いてある。痛みは僅かなので、大した傷ではないようだが。
とりあえず、今の自分の立ち位置は分かった。
でも状況が分からない。というより、覚えていない?
確か、この世界でわたしは馬車に乗って……それからーーー
「……大きな衝撃?」
「は? アリス様?」
「……ニムレー、わたし少し記憶が混乱しているようなの。ちょっと確認してもいい?」
「はい。勿論です」
「よかったら座って」
青い顔でまた背筋を伸ばした彼女に、手近にあった椅子を勧める。
すると彼女は飛び上がって驚いた。
「そんな、とんでもない! お嬢様のおそばで使用人が椅子にかけるなど、恐れ多いことです」
……いや、そんなもんですか? 座るだけじゃね?
でも、この世界ではそれが普通なのかもしれない。それだけ身分差が大きいのかもしれないし。
本音を飲み込み、勤めて穏やかな笑顔を作る。
「ヒェッ」とか悲鳴が聞こえた気がするけど、なかったことにする。
「気にしなくていいから。あなたとゆっくりお話しがしたいのよ。座って、ニムレー」
*****
「……以上が、事故の顛末になります……。お嬢様、思い出されたでしょうか」
「馬車に乗ってたことは覚えているのよ。でも事故の記憶がね、いまいち……」
この世界の、この身体。
アリスという名前の「わたし」は、3日前に馬車に乗ってこの屋敷から出かけた。
平民たちの住む街に来ている、サーカス? か何かを観に行くはずだった。
ーーーその途中で、事故に遭ったというのだ。
「森の中で飛び出してきた鹿を、咄嗟に避けたんです……。ニムノスは……決してわざと、お嬢様をこんな目に遭わせるつもりは」
なるほど。
ニムノス……ニムレーの息子。この屋敷では馬車の御者として働いている。
だからわたしを送るために一緒にいたのは不思議ではない。
けれどもーーー
「あの子が、お嬢様を殺すためにわざと事故を起こしたなどと……あり得ません! 息子は断じてそのような悪しき心を持ってはおりません。どうかご慈悲を……。処刑は、それだけは」
「えっ」
処刑……処刑ってなんだ。
それってーーー
「お許しくださいませ! ニムノスを殺さないでくださいませ、アリス様!!」
椅子から転げ落ちるように床に座り込んだニムレーは、また土下座モードでわたしに頭を下げたのだった。
頭の中で、もう一人のわたしが囁く。
ーーー処す? 処しちゃう?
最初のコメントを投稿しよう!