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ーーー現状把握完了。 わたしは改めて自分の顔を手鏡で見て、それから手足も見た。 この身体の少女ーーーアリスは確か今15歳だったはずだ。そしてもうすぐ、16回目の誕生日を迎える。 身体にはあちこちに包帯や湿布のようなものが巻いてある。痛みは僅かなので、大した傷ではないようだが。 とりあえず、今の自分の立ち位置は分かった。 でも状況が分からない。というより、覚えていない? 確か、この世界でわたしは馬車に乗って……それからーーー 「……大きな衝撃?」 「は? アリス様?」 「……ニムレー、わたし少し記憶が混乱しているようなの。ちょっと確認してもいい?」 「はい。勿論です」 「よかったら座って」 青い顔でまた背筋を伸ばした彼女に、手近にあった椅子を勧める。 すると彼女は飛び上がって驚いた。 「そんな、とんでもない! お嬢様のおそばで使用人が椅子にかけるなど、恐れ多いことです」 ……いや、そんなもんですか? 座るだけじゃね? でも、この世界ではそれが普通なのかもしれない。それだけ身分差が大きいのかもしれないし。 本音を飲み込み、勤めて穏やかな笑顔を作る。 「ヒェッ」とか悲鳴が聞こえた気がするけど、なかったことにする。 「気にしなくていいから。あなたとゆっくりお話しがしたいのよ。座って、ニムレー」 ***** 「……以上が、事故の顛末になります……。お嬢様、思い出されたでしょうか」 「馬車に乗ってたことは覚えているのよ。でも事故の記憶がね、いまいち……」 この世界の、この身体。 アリスという名前の「わたし」は、3日前に馬車に乗ってこの屋敷から出かけた。 平民たちの住む街に来ている、サーカス? か何かを観に行くはずだった。 ーーーその途中で、事故に遭ったというのだ。 「森の中で飛び出してきた鹿を、咄嗟に避けたんです……。ニムノスは……決してわざと、お嬢様をこんな目に遭わせるつもりは」 なるほど。 ニムノス……ニムレーの息子。この屋敷では馬車の御者として働いている。 だからわたしを送るために一緒にいたのは不思議ではない。 けれどもーーー 「あの子が、お嬢様を殺すためにわざと事故を起こしたなどと……あり得ません! 息子は断じてそのような悪しき心を持ってはおりません。どうかご慈悲を……。処刑は、それだけは」 「えっ」 処刑……処刑ってなんだ。 それってーーー 「お許しくださいませ! ニムノスを殺さないでくださいませ、アリス様!!」 椅子から転げ落ちるように床に座り込んだニムレーは、また土下座モードでわたしに頭を下げたのだった。 頭の中で、もう一人のわたしが囁く。 ーーー処す? 処しちゃう?
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