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「やめよう」
僕は玄関の扉を閉めて靴を脱いだ。
布団に倒れこみ枕に顔をうずめて全てを思い出す。そうだ、あれを見て僕はその日、酒を死にそうになるまで飲んだのだった。僕の絶望は暗い胸の奥底にまでしみ込んでいて、酒で清めようとしても晴れることはなかった。
絶望だ。もう仕事に行きたくない。行く理由がない。
綾辻さんも僕を裏切った。
なら、誰があんな過酷な現場に行くものか。怪獣の死骸は信仰に目覚めるほど臭いし、戦闘機の離着陸時の土砂運搬は坊主の苦行だし、戦闘員は偉そうだし、マスコミはうっとおしいし、視察にくる政治家は仕事の悪口を言わせようとするし、とにかくもう何もかも面倒だ。
僕の綾辻さんがいないのなら、もうあんな職場、気が滅入るだけだ。
「ん?」
そこで僕はテーブルの上に思い出させるように置かれたレンタルビデオの入った袋を見つけた。先週に五枚ほど借りて、確か今日は返却日だったのだ。
「……行くか」
延滞料金を取られるのは嫌だったし、一度外に出れば、何もなく帰るのも面倒だったので、僕は出社した。
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