不器用な男たち

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 何だったのだろう。店長は何を言いたかったのだろう。それよりも私はどうしてしまったのだろう。歩き方を忘れてしまったようだ。足に力が入らない。 「酔っ払ってんのか?」  突然後ろからキツい声が聞こえてきた。 「お前バイト7時までじゃないのか? もう9時だぞ。酒でも飲まされたのか? 歩き方変だし顔が赤いぞ」  ミツルにそう言われて驚いた。まだ顔が赤かったのか。じゃあ店長にも見られているはずだ。凄く恥ずかしい。 「き、今日は残業頼まれたの。他のバイトの子が急に来れなくなったみたいで。ずっと立ちっぱなしだったから疲れちゃった」 「じゃあ乗せてやる。早く乗れ」  ミツルは自転車の荷台を指差した。 「たまたま俺が通りかかったから良かったな。お前運が良いよ」  運が良いのか悪いのか。きっと少し前だったら凄く嬉しかったはずだ。憧れのミツルと2人乗りなんて天にも昇るほど舞い上がったはずだ。 「ありがとう……」  遠慮がちに荷台にまたがった。ミツルは無言で私の両手を掴み自分のお腹まで引っ張った。  風は少し冷たかった。火照った頬を冷ますのには丁度良かった。ミツルの運転は乱暴でスピードも早く、カーブを曲がったり止まる度に私はミツルにしがみついた。  でも全然ドキドキしない。頬も冷めていく一方だ。何でだろう。夢に見たシチュエーションなのに。何でだろう。
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