22人が本棚に入れています
本棚に追加
何だったのだろう。店長は何を言いたかったのだろう。それよりも私はどうしてしまったのだろう。歩き方を忘れてしまったようだ。足に力が入らない。
「酔っ払ってんのか?」
突然後ろからキツい声が聞こえてきた。
「お前バイト7時までじゃないのか? もう9時だぞ。酒でも飲まされたのか? 歩き方変だし顔が赤いぞ」
ミツルにそう言われて驚いた。まだ顔が赤かったのか。じゃあ店長にも見られているはずだ。凄く恥ずかしい。
「き、今日は残業頼まれたの。他のバイトの子が急に来れなくなったみたいで。ずっと立ちっぱなしだったから疲れちゃった」
「じゃあ乗せてやる。早く乗れ」
ミツルは自転車の荷台を指差した。
「たまたま俺が通りかかったから良かったな。お前運が良いよ」
運が良いのか悪いのか。きっと少し前だったら凄く嬉しかったはずだ。憧れのミツルと2人乗りなんて天にも昇るほど舞い上がったはずだ。
「ありがとう……」
遠慮がちに荷台にまたがった。ミツルは無言で私の両手を掴み自分のお腹まで引っ張った。
風は少し冷たかった。火照った頬を冷ますのには丁度良かった。ミツルの運転は乱暴でスピードも早く、カーブを曲がったり止まる度に私はミツルにしがみついた。
でも全然ドキドキしない。頬も冷めていく一方だ。何でだろう。夢に見たシチュエーションなのに。何でだろう。
最初のコメントを投稿しよう!