不器用な男たち

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「ごめんルナちゃん、今日も残業いいかな?」  数日後、また店長に残業を頼まれた。「残業」と聞くとこの間の事を思い出し、少し緊張した。でもここ数日間何も無かったから大丈夫かと、私は了解した。 「ありがとう、助かるよ」  満面の笑みで店長は言った。その笑顔を見ると嬉しさが湧いてくる。こちらも自然と笑顔になる。  これが理想の恋人同士なんだろうなと思った。素直に「ありがとう」を言い合えて、笑顔には笑顔で返す。お互いがお互いの事を思いながら助け合う。そんな漫画の中の憧れの恋人同士に、店長とだったらなれるのかもしれない。  穏やかな時間が流れた。バイトをしているというよりも、店長を助けている、店長と一緒に店をやっているという感覚だった。なのでお客さんに対しても感謝でいっぱいになり、心から「ありがとうございました」と言える。こんな人とだったら将来一緒にお店をやってみたいな。店長とだったら……。 「時間だね。お疲れ様」  変な妄想をしながらバイトをしていたのであっという間に時間が過ぎた。そう、妄想だけだ。だって店長には奥さんがいる。 「気を付けて帰ってね」 「はい。お先に失礼します」  身支度を整え、入荷した商品を陳列している店長に挨拶をし、帰ろうとした時だった。 「ね、見て見て。新作のスイーツだよ」 「うわっ、可愛い!」  春の新作スイーツは真っ赤なイチゴの乗ったピンクのムースだった。 「味見してく?」
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