最後の朝

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最後の朝

晴れた朝。 私はそっとため息をつく。 もう、これで今までの日常は終わりなのだ。 私たちは今日この地を離れる。私が生まれてからずっと暮らしてきた地を。自然豊かでのどかなこの地を旅立ち、遠く離れた都会の街へと。 緑の豊かな河原。優しく流れ続ける川。その上にかかった橋。朝日の降りそそぐ商店街。賑やかになり始める住宅街。 いつも通りの、何年も変わらない私の朝。 私はいつもより時間をかけてゆっくりと歩く。 1歩ずつ。踏みしめて。辺りを見回して。 これで、この朝は最後なのだから。 私はこの地との記憶を辿りながら歩く。 友達と喧嘩した時に泣いた公園。仲直りした河原。いつもおまけをしてくれるおばあちゃんのいる駄菓子屋。クラスメートと体育祭の練習をしたグラウンド。好きな人に彼女がいると聞いた時1人そっと泣いた広場。 思い出が尽きることはない。 改めて私はこの地が好きだ。優しい人々がいて、暖かい日差しが降り注ぎ、活気の溢れるこの地が。 ふと顔を上げる。 この地を見渡せる高台に着いた。 今まで、たくさんのことがあった。 たくさん泣いた。たくさん笑った。たくさん怒られて、たくさん愛された。 私が愛する地を見渡して私は呟く。 ありがとう、さようなら。 いってきます。
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