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私はある建物の片側の飲食店で楽しく働いていた。暖かな日に優しく包まれ、テーブルを拭いている。
一人作業になりふと静寂が訪れた。
ふらりと店を抜け出し、渡廊下を歩いて今まで立ち入ったことのない右側の建物に入ると、これまでとは違い日の光に影を秘めた、涼やかな空気を纏う図書館が見えた。
入ろうか躊躇っていると、黒のロングコートを羽織った上品な男性が壁にもたれ読書をしていた。彼を知的にキャラクターづける眼鏡と、艶やかなオールバックの黒髪が特徴だった。
そっと声をかける。
あそこの階段は、図書館に続いているんですか?
興味あるの?丁度いい!入ってみよう…。
彼は目線を本から外し、笑みを浮かべながら私を見つめ言った。
上へ続くかに思われた階段は、足を踏み入れると不思議と地下へ進んでいく…
と同時に何かが素早い動きで視界をかすめ私と彼を襲う…私を左手で背後に隠し、彼が銃を撃ち放す。
また襲いくるものを、また武器で殺す。
しばらくそうしてる内、私を連れて行けるのはそこまでだったのか、上階へ私を連れ帰る。
逃げながら思わず彼の腕を握っていた。突如私に化け物の攻撃が当たってしまった。
彼が倒れた私を抱き上げ一階へと運ぶ。
私は死ぬのか。
未知と恐怖の中意識が薄れ行く…やがて彼が私をおろすと
彼は平然とした表情の中に少しの残念さを垣間見せ、ごめんねと私に謝る姿が見えた…。まるで、またダメだったかと落胆する表情にも見えた。
次の瞬間、私は渡廊下の端に立っていた。この世界の始まりの場所に。傷のない、元の体で。
ハッと振り返ると男達に声をかけられ、"彼"の仲間だと名乗られた。
状況が飲み込めずにいたが、この機会を逃したら路頭に迷ってしまう気がして
私は顔を伏せ戻って来る彼に訪ねた。
仲間になってもいい?
…もちろん…!!
驚き若しくは隠しきれない楽しさ、はたまた探し求めてたものを見つけたかの様に、
口元を綻ばせ興奮した様子で彼はそう言った。
私は彼を、出会った瞬間から愛していた気がした。
ふと、ガラスに自動販売機にもたれかかる自分が映った。
まだ仕事場の制服に身を包んでいた。一呼吸置き、覚悟を決めたかのように被っていた帽子をゴミ箱に捨て去る。
襲われた際の傷が完璧に消えている自分を見動揺するも、妙に冷静になり職場の人達に辞職の話をしなくてはと歩き出す。
が、腕を掴まれた。向こうの世界では君の存在は消えてるよ。
彼の仲間の一人が言う。嫌な予感がした。信じたくなかった。
ついで彼が言う。あの廊下を渡って、こっちに来られた時点で君はすでにこちらの世界に引き寄せられていたんだ。
普段はこの片側の建物が見える人間すらいないんだけどね、君の様な存在もいると聞いた事がある。
興味が底をつかないといった顔で彼が言う。私は、そう言う男の顔が、美しい平穏に満ちた彼のものであったはずなのに、不安と畏怖を私に植え付けるものにしか見えなくなっていた。
また地下へ降りて行く。
彼はどうやらこの地下を調べ、旅をしているらしい。どこまでも続く、先の見えないこの無機質な地下を。
私の傷付いた体はどこへ消えたのか。
それとも、渡廊下へ戻る時に傷が修復されただけで、この体は元の私の体なのか…。
答えを知りたい?と問うような表情で彼は私をある場所へ連れて行く。
そこに"私"が死に倒れていた。
彼が私の体を地に優しく押し返したかと思うと、"私"は消滅した。ゾクリと何かが私の背を貫く。私を無に還す、その姿が愛しく思えた。相も変わらず、木漏れ日がひんやりとした空気と混ざり合いながら白い壁から私たちへと反射していた。
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