22人が本棚に入れています
本棚に追加
/182ページ
アクシデント&ハプニング
S氏はユキコが戻ってくる間、一服しながらコンビニの外で待っていると、下校時だけに小学生から中高生まで、若年層の出入りは引っ切り無しだった。
”さすがにこの時間帯は、子供たちが店内に吸いこまれるようだわ(苦笑)。ウチもこうありたいが、商売の形態が違うからなあ…。しょせんは無理だよな、ハハハ…”
そんなたわいもない風情にもたれかかっている間、約2分弱して…。
気が付くと、S氏のすぐ脇でも、先ほどのユキコとほぼ同年代の少女3人がアイスクリームを食べてながら、スマホ片手にはしゃいでいた…。
そうこうしていると、ユキコが小走りして、店の外に出てきたのだが…。
「ああ、おじさん…、お待た…、ワー、ギャー!!」
「ユキコちゃん!」
何と、ユキコは店の扉を開けて出てきた途端、絶叫とともに、その場に倒れ込んでしまったのだ…。
***
「キミ…、どうしたんだ!大丈夫か…⁉」
S氏は咄嗟に煙草を消して、ユキコの元に駆け付けると、そのまましゃがみこみ、両手でユキコの体を抱え込んだ。
「ううっ…、ううっ…」
ユキコは両目をぱちくりさせ、体を小刻みに痙攣させていた。
「あー?あれ、ユキコだ!」
「ユキコー、どうしたの⁉」
アイスを食べていた3人組はどうやら、ユキコの同級生のようだった。
3人はすぐにユキコとS氏に寄っていった。
***
「ちょっと…、おじさん‼ユキコに何したんですか⁉」
「は…⁇」
「ユイ、アキホ…、店の人呼んできなよ!」
「わかった…」
「ちょ、ちょっと待ってくれって‼オレは何も…」
「でも今、ユキコは大声で叫んで、それで倒れこんじゃったじゃないですか!」
”勘弁してくれって!…いや、ここであまり言い訳がましいことを捲し立てたら、かえって不審人物物扱いされちまうか…。よし、ここはあまりムキならないほうがいいな。…それにしてもどうっしたっていうんだ、急に、このユキコって子‥。まあ、意識はあるようだし、落ち着けばちゃんと話しを聞けるだろうが…”
S氏はある意味、沈着冷静だった。
そう…、こういった場で、あせって”無実”をムキになって主張をしても、逆効果になる、と即座に頭は整理できたのだ。
***
「どうされました、お客さま…?」
「いや…、この女の子が店のトイレから出てきたら、急に声を上げて倒れ込んでしまったね」
「失礼ですが、この店にはご一緒にでしたよね?」
「ええ‥。一緒でしたよ。細かいことは、この子が落ち着いたら直接聞いてみて下さい」
「…店長さん、警察に知らせた方がいいんじゃないんですか?」
ここで3人の少女と店長らしき男性のほか、店内の客や通りがかりの人達も足を止め、何事かと、地面にへたり込んでいる女の子と中年男性に視線を留めていた‥。
「呼ぶんならどうぞ。要は、この子の話で全部わかるんだし」
「…」
S氏はここでも動じず、開き直ってはいなかったが、毅然と言い放った。
もっとも、内心は正直、冷や冷やものではあったが…。
すると、S氏に抱えられたユキコが口を開いた…。
「あのう、すいません。店の外に出たら、大きな蛾が飛んできて…。私、蛾とか大っ嫌いで急に血の気が引いちゃって…」
「そう…。で、もう大丈夫かい?倒れた時、ケガしなかったかな?」
「はい…、もう大丈夫です。おじさんが抱えてくれたんで…。ごめんなさい」
「いや、びっくりしたけど…。とにかくよかった」
S氏はそう言って、店長とユキコの同級生の顔に目線を当てた。
それは、”これで納得したよな!”と言わんばかりに…。
無論、4人には”納得”以外の選択肢は持ち得なかったが。
最初のコメントを投稿しよう!