フリー素材、織田信長

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「失礼をした。我は織田上総介信長であるぞ」 こんな変質者が織田信長を名乗るとは何たる滑稽か! 敏行は信長を指差して大笑いをする。 「ははははっ! 泥棒だか変質者だか何だか知らないけど、偽名名乗るならもう少しマトモな名前にしてくれよ!」 「ところでだ、貴様に聞きたいことがある」 「え? 何? ドッキリ? ちょっとカメラー? 素人さん相手にするドッキリにしては酷くないかー? カメラどこー?」 敏行はテレビ局のドッキリ企画を疑いカメラと隠れているテレビクルーを探すが、そんな者がいるはずもない。 「もしかして小型カメラ? もしかしてyoutuberがやってる巻き込まれ系ドッキリ? 素人が素人巻き込むなんて酷い話だよ。信長さん? アンタも大変だねえ? こんな下らないことに付き合わされて」 「貴様ァ! いいから我の問いに答えぬか! 我もわからんことだらけで困っておるのだ。あの金柑頭に謀反を起こされてから何があったというのだ!」 「金柑頭? 明智光秀の渾名知ってるなんて歴史に明るい役者さん雇ったんだねぇ」 「明智十兵衛光秀! あの金柑頭めが! 一番信頼していた家臣であったのに! 謀反なぞしおってからに! 実に腹立たしい!」 信長は敏行に掴みかかってきた。敏行は心底鬱陶しそうな顔をしながら信長を振りほどいた。語気も強く荒くなる。 「いい加減にしろよ? アンタ、どこの事務所? いい加減にしないと訴えるよマジで」 「貴様が何を言っておるのか分からんぞ!」 「こっちだってわかんねぇよ!」 「今『どこの』と、聞きおったな!? 我は織田家当主! 織田上総介信長であるぞ! 今は近江国は安土城を居城としておる」 「はいはい」 まーたはじまったよ。敏行は話半分で良いやと言いたげに小指で耳糞を穿りふぅと呆れ気味の溜息で吹き飛ばした。暇潰しの面白半分でそのノリに合わせることにした。 「お、おのれぇ! 我は天下統一(てんがとういつ)を成し遂げる織田上総介信長であるぞ! それを前にして何という無礼な!」 「でもアンタ、本能寺でくたばったでしょ? 天下統一寸前で駄目だったくせに偉そうだね」 「貴様ァ! 何故我が本能寺にいたことを知っておる! 織田家の家臣しか知らぬはず!」 「いやあ…… そんなこと言われましても…… 日本国民の大半が知ってることですし」 「それに! 今『くたばった』と、宣いおったな? 今こうして生きておる我は何者だと言うのだ! 言え! 言えぇ! 教ぇい!」 「全く…… もうアンタ時代劇の信長のオーディション出なよ。並み居るベテラン俳優や美形のタレントさん蹴落として信長に選ばれると思うよ。俺が保証する」 「質問に答えんか! ならば聞こう! この織田上総介信長! いつくたばったのか言わぬか!」
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