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信長はその後も漫画を読み進めて行く。四分の一を読み終えたところで、再び敏行に声をかけた。
「おい、そこな公家は誰だ。桶狭間と書かれているが」
「今川義元、今川治部大輔義元、今川家の大名です。アンタが桶狭間で倒したお人ですよ」
「あいつはこんな頭の足りない麿呂ではない! 勇敢な益荒男であったぞ!」
「いやぁ…… そう言われましても。天下統一が成されて、世が平和になった後に『歌舞伎』って言うお芝居が流行りまして、そのお芝居の筋書きに『今川義元は公家みたいな外見だった』って盛り上げるために書かれて以降そうなっちゃっているので」
「それにだ、我が『猿』と呼んでおるこの男は誰だ。草履を懐で温めて貰ったことなぞないぞ」
「木下藤吉郎秀吉ですよ。権六や五郎左衛門(丹羽長秀)からは禿鼠って呼ばれていたようですが、後に天下統一を成し遂げた後に描かれた肖像画が『猿』っぽいことから、昔から『猿』って呼ばれていたってことになったそうです」
「あいつが天下統一だとぉ! 何を言うておるのだ! 嫁を泣かせる甲斐性無しに何が出来るか!」
「あの、もう黙って最後まで読んで貰えますか? 一々お教えする程詳しくないのですが」
「う、うむ。是非も無し(仕方ない)」
信長は最後まで漫画を読み終えた。本能寺で炎の中敦盛を舞う自分のコマを見て、涙を流す。
「そうか、我は本能寺で死んだと言うのか」
「そうですそうです。この後、明智十兵衛光秀は安土城から野盗同然に財宝を盗んで城に火ぃ点けて逃亡。その後、禿鼠に討伐されて討ち死に。後は激しい身内争い、権六も死んで、最後に勝ち上がったのが禿鼠ってわけです」
「ほう」
「その禿鼠も日本だけに飽き足らずに大陸の『唐国』へと侵攻。その道中にある朝鮮国を戦場にして戦ったわけです。しかし、唐国・朝鮮国の連合軍の抵抗は頑強で、唐入りは失敗。禿鼠も病死で唐国入りは夢に消えたわけです」
「であるか」
「禿鼠の後継者争いでまた身内争いがありまして……」
「仲の悪い奴らよの」
「アンタの部下でしょうに…… アンタいなくなって好き勝手やってるだけでは?」
「……最後まで勝ち上がったのは誰だ?」
「徳川家康、アンタがまだ吉法師と呼ばれていた頃に織田家預かりの人質になっていた竹千代ですよ」
「ほう、あの童が」
「徳川家によって天下太平の世が築かれたわけです」
「我は…… 本能寺で死んだ時点で終わっていたというのか…… かなしい……」
それから信長は糸の切れた操り人形のように膝から崩れ落ち倒れてしまった。
その後、敏行は交番に行き、自宅に『織田信長』を名乗る不審者がいると通報。織田信長は警察署に連行され、その身柄を留置所に預けることになった。
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