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その日の放課後。終業のチャイムが鳴ると同時に僕は項垂れた。
あれから千夏は、教室に戻ってきていない。なぜか、蕾もだ。赤木から理由を聞かれたけれど、どう説明すればいいのやら。ごまかしたまま、やり過ごそうとしている自分がいた。
なんて、無責任な僕なのだろうか。このままではいけない。千夏を探さなければ。モヤモヤしたまま、部活をサボって帰宅するのは足が重たくなる。
そんな中、後ろからものすごい足音が聞こえてきた。走っているみたいだから、急ぎの用事らしい。
「白澄!ちょっとそこでストップ!」
「は、はい?」
応答しながら、声がする方向を振り返ってみる。その先では、なんという珍しい光景だ。いつもは呑気な萌黄先生が、今は血相を変えて、こちらに向かってきているではないか。
今までこんな様子は見たことがあったのか。いや、ない。一体、何事だ?
「単刀直入に言うわ」
勢いよく急ブレーキでもかけるように立ち止まる。それから萌黄先生は言った。相当慌てていたのだろう。とても息が荒そうに見えた。
「あなたのお母様、倒れて病院に運ばれたの」
その言葉を聞いた途端、頭中に爆弾を投げ込まれたような錯覚に陥る。そして驚きのあまり、言葉を失った。
嘘、だろ…………?
今朝は珍しくご機嫌。愉快に鼻歌まで口ずさんでいたというのに。
その上、中学からバレースクールをやめ、バレー部に入部してから4年と半年。母さんの入退院は、見られていなかったはずだ。
それが、どうして…………?
その奇跡的な現実のおかげで、バレーをやる気力がここまで途切れなかったというのに。なんだかずっとずっと信じていた誰かに裏切られた気分だ。
『明日、予想外のことが起こるかもよ』
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