16人が本棚に入れています
本棚に追加
左足の捻挫が完治して、一週間後。季節はすっかり秋となり、校内は紅葉に包まれる。
桜より、もみじやいちょうの木が多く植えられているからか、その分一層強く感じられた。
医者から許可をもらった僕は、さっそく早朝ランニングを再開させ、バレーもする。
久しぶりのネットの高さ。新鮮で、懐かしいボールの感触。
だけど____。
「くっそー!」
黄昏時もとっくにすぎた、体育館。
コートでは無数のボールが散乱していた。
その真ん中で、僕は力なく項垂れる。
おかしい、おかしすぎる。
何度、何度やってもサーブも、スパイクもネットすら超えてくれない。唯一、レシーブだけはインターハイの時と変わらず、安定しているというのに。こんなのって、ありかよ。
「もうそんぐらいにしとき。明日もあるんやし。な?」
隣でボール上げに尽くしてくれていた赤木が、慰めるように片付けを促す。
気のせい、だよな?明日になったら治ってる、よな?きっと、悪夢でも見ているだけだよな?
わかってはいた。その割にはリアルすぎることは。でもそれより、信じたくない気持ちの方が圧倒的に勝っていた。
受け入れたくなかったんだ。この絶望的な状況を。
*
あれからというもの、僕の放つサーブが、スパイクが、ネットを超えたことはない。
そのせいなのか、それとも衝突事件のせいか。何かと先輩から仕事を押し付けられることが多くなった。
ネットの出し入れや、コートの後片付け。
月に一回はやってくる、体育館倉庫の掃除。
最初のコメントを投稿しよう!