赤と黒の世界

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(まぶた)が重い。岩でも乗っているかのようだ。同じく、体も重たい。それでもなんとか身を起こす。 「あ、起きたか」 ぼやけた視界がだんだんクリアになってくる。その向こうには茂がいた。 「今、何時?工場は?」 あまりの晴天に目を見張り問う。もし工場がある日なら大遅刻だ。朝食や夕食は間違いなく抜かれる。 「そう、焦るな。休みで朝の9時だ」 呆れるわーと言いたげに茂がぼやいた。おかげでほっと力が抜ける。と同時に息を吹き返したように疲れが戻ってきた。ぐったり体が倒れる。 どうやら私はさっきまで泣き疲れて眠ってしまったようだ。なのに、この重さって我ながらやけにくたびれているらしい。 「大丈夫か?こいつらの家族の安否を見に行きたいんだが。動けないなら支えるけど」 「こいつら?」 背中にハリネズミでもいたかのように飛び起きる。それから辺りを見渡すと小学生くらいの子が3人、同い年ぐらいの女子がひとり。幼稚園ぐらいの子どもがふたり、あとおばさんがひとりいた。 「おう。俺もだけどさ、こいつらも泣き疲れてたんだ。一人ずつ紹介するな。まず、右足がない(つゆ)」 その言う通り、右足の膝から下がない。包帯で止血してあり、横には脇の下にはさめる林のようなものが2本ある。 「小5です。昨日は声をかけてくださり、ありがとうございました!」 と頭を下げてくる。闇と炎であまり覚えてないけれど、なんとか取り出した。 「次…………」 と耐え間なく茂が紹介していく。耳が聴こえない(あま)に心臓が弱い(ほこる)。栄養失調の重度である(べに)。現実離れした衣服を着ているのが透白(かな)菜子(なこ)。このふたりは記憶喪失らしい。 あと妊婦の浅葱(あさぎ)さん。彼女は茂の母だ。 そして、最後のひとりはというと…………。 「パパー、ここどこ?」 「お、やっと起きたか。って、パパ!?」 どうやら私よりも長く寝ていたらしい男の子が辺りを見渡す。両手を伸ばし、何かを掴もうとしている。 「この子、連れてきたっけ?」 なん人もの人を見たし、声をかけたり助けたりした。だからか、ひとりひとりを把握できてはいない。 その一方で、茂はいきなりのパパ呼びに後退りしていた。表情には驚いているような、苦笑しているような、複雑なものが表れていた。 「ママー」 って今度は私のところへなついてきたし。ママじゃないんだけど。目はくりくりしていて、愛嬌があった。でもどこか変なような…………。
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