空に祈る少女

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視界に捉えてみると、彼女は意外と近くに立っていた。おそらくその距離は2メートル以下。今までその気配に気づかなかったのが、不思議に思える。不覚にも後ずさりたくなった。 「ねぇ、その水そんなにおいしいの?」 その一方で彼女は、ついさっきまで僕が飲んでいたものに興味津々といった目を向けてくる。 「水じゃないよ。スポーツドリンク」 そう訂正しながらも、悟る。数秒前の独り言が、彼女に聞こえてしまっていたことを。その途端、羞恥心が芽生えた。 藍色リボンつきの緑のセーラー服は、僕と同じ高校のもの。靴下のラインは赤で、学年も同じ2年だとわかる。 明るい茶髪は腰のあたりまでのびていて、1本1本が絹糸のように細い。前髪も長く、両目をすっぽりと覆い隠している。それは闇の住人のような、ミステリアスな雰囲気を醸し出していた。 そして、カメラのピントがずれたのかごとく、曲がった鼻筋。一見目立ちそうな風貌ではあるのだが、僕は知らない。話したことはおろか、すれ違いの記憶すらない。 「スポーツ…………ドリンク?」 混乱する中、彼女は首を傾げて呟いてきた。傾げて?ああ。驚きのあまり「嘘だろ?」と声が上擦る。しかし、彼女の様子に変化は見られない。 「知らないのか?」 「うん…………飲んだことない」 人差し指で頬をポリポリとかきながら、彼女は言った。その態度はスポーツドリンクという言葉すらも初耳だと言いたげに見える。今時、そんなやつがいるのだろうか。あり得るなら異国の人か、それとも…………。 「一口、もらってもいい?」 「ん?どうぞ」 他人行儀な声色の彼女にそれを差し出す。受け取った彼女は、嬉しそうにふたくちも飲み干した。
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