空に祈る少女

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「えっ…………おいしい」 味を心の底から噛み締めるように、しみじみと彼女は言った。どうやら初耳なのも、飲んだことがないのも、本当らしい。 「それ、あげるよ」 「えっと、いいの?!」 ああ、構わない。あまりにもおいしそうに飲んでいたものだから。それに…………。 「僕、もう一本持ってるし」 そう言いながら、それを群青色の肩掛け鞄から取り出してみせた。運動部だからと、どんな季節だろうと、二本持たせられるのだ。 けれど正直、1本で充分だ。 「なんだか、申し訳ないな。…………この世界は優しい。スポーツドリンクの味みたいに、疲れた心を癒してくれる。そんな感じ」 そうだろうか。僕には共感できそうにない感覚だ。住んでいる世界が、まるで違うらしい。 確かにスポーツドリンクの味は、アロマの香りさながらに優しい。しかし、この世界もそうかといったら違う気しかしない。 テストの点数や、通知表の成績が上下するだけで、親は落胆したり喜んだり。はたまた、耳にタコができそうなくらい、冗長な小言を聞かされたり。 進展のない毎日や、延々と行われる授業は、退屈でしかない。たまらず、睡魔に負けてしまいそうだ。 とはいえ、そんな世界をどう思うかなんてそれぞれの意志。テストに出たら答えがどうであれ、みんな丸になるサービス問題のようだ。 それより今は、どうしてそう感じるんだ?と問うべき時なのだろう。きっと。 この世界を優しいと彼女が思う理由。確かに気にならないことはない。 けれど案の定、聞けるはずがなかった。初対面という関係そのものに、僕自身が慣れていないから。口すらも動いてくれなくて、情けなくなる。
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