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一方、千夏は無数に整頓された本を物珍しそうに見つめている。徘徊する中、長い前髪に隠れた瞳は明るそうだ。それでいて、どこかはしゃいでいる子どものように見える。
しばらくして、弁当を食べにきたことを思い出したのか、千夏は立ち止まる。けれど、そのように見えただけだったみたいだ。一冊の本を取り出し、ぱらぱらとゆっくりページをめくっている。
その本はなぜか、戦時中の日本についてまとめられた資料集だ。千夏はそれを、見てはいけないものを見てしまったような表情で見つめている。本を持つ手も小刻みに震えていた。
不審に思いながらも、そのページをのぞきこむ。
すると、真っ先にとびこんできたのは、焼け野原となった町。全焼した家々が崩壊し、瓦礫の山を作っている。そんな、見るに耐えない、無惨な光景だ。あまりに古いせいか、一面セピア色に染まっていた。
無意識の内に後ずさる。その足には鳥肌がたっていた。身震いがして、今にも背筋が凍りそうだ。
嘘だろ?これが、日本のかつての姿…………なのか?信じたくない、信じたくない!いくらなんでも、むごすぎる仕打ちだぞ。
パタン。
しばらくの沈黙の後、資料集は閉じられた。焼け果てた町が視界から消え、現実に引き戻される。
千夏はゆっくりそれを胸に抱いた。俯いているからか、その顔はよく見えない。
床をめがけて、涙の雫がぽとりと落ちていく。僕のではない、千夏のだ。淡くて儚いそれは、床にシミをつくっていく。
「…………泣いてる?」
僕がそう呟いた直後千夏は、はっと我に返ったようだ。僕に背を向け、涙を拭っている。
「ごめん、わけわかんないよね。…………気にしないで」
嗚咽混じりに、千夏は言った。その声は弱々しく、掠れている。まるで、背負いきれないほどの悲しみに襲われているみたいだ。心配になるのは、言うまでもない。
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