旋風の吹き始め

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昨夜の千夏の言葉が脳裏をよぎる。おそらくこのことで、間違いないだろう。 それにしても、未来予知ができるなんてエスパーか?いや、きっとまぶれだろう。ここは小説やマンガの世界じゃないんだから。 「ま、まじですか?」 いつの間にか隣に来ていたらしい赤木が問う。その行き詰まったような声に、はっと回想から我に返った。 耳を疑いたくなるのは無理もない。その眼差しは真剣さながらだ。 「残念だけど、今は嘘をついている場合じゃないの。わかる?二人とも」 萌黄先生は叫びをあげた。今まで聞いたことないくらいの声量で。それにはじかれたように、こちらを向く生徒もちらほらいる。けれど視線を気にしている暇はなかった。 「空野と蕾のことはなんとかしとく。心配するな。とにかくお前は行ってこい! 」 耳打ちするみたいに赤木が言った。それから強く背中を押してくれた。 なんだか、説得力があるような、ないような。曖昧な発言だ。けれど今は…………行くしかない。 「おう、任せた。赤木」 廊下を走っていく彼の姿は逞しく輝いている。それを尻目に萌黄先生誘導の下、母さんが運ばれた病院へ急いだ。 全速力で待合室へ。そこで待ち構えていたのは、車イスに乗ったばあちゃんだ。「こっちじゃ」と手招きをしてくる。 なぜだろう。その様子が切羽詰まったように見えないのは。緊急事態だというのに呆れそうだ。 「母さんは?」 荒い息を整えながらも、聞かずにはいられなかった。まるで何かにとりつかれているみたいだ。 「まぁ、そう焦らんと。病室に父さんもおるから向かおうかね」 不思議と冷静な口調で、ばあちゃんは告げた。それからばあちゃんの車椅子を押し、病室へ。 そこへ着くと、ばあちゃんはドアを二回ノックしてから、引き戸をひいた。 「菊芭(きくは)や、白澄が来たよ」 菊芭とは、母さんの名前だ。 「ありがと。…………ごめんね。インターハイ近いのに」 ベッドにもたれた母さんは申し訳なさそうに言った。 って倒れたんじゃねぇのかよ。 今までの心配と焦りはなんだったのだろう。
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