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今まで母さんは幾度となく、入退院を繰り返してきた。その分だけ僕ら家族と共に、病と闘ってきた。たとえ、雨が降ろうと槍が降ろうと。その努力は、報われないのだろうか。
何も言葉が出てこない。きっと、手術できないことへの動揺と悔しさからだろう。とはいえ、ここで何かを言ったところで、解決する問題ではなかった。
「ごめん、こんなことになってしまって。…………せっかく、バレー頑張ってくれてるのに。母さんはっゴホッ」
そこで喋りすぎたせいか、母さんは咳き込む。隣にいた父さんは慌てて、その背中をさすった。
「ありがとう、あなた」
やがて、落ち着きを取り戻した母さんは、小さく呟く。それからため息をもらした。
「尚更あれは…………叶えてもらわなきゃね」
あれとは何か。それは言うまでもなく、僕にはわかってしまう、母さんの頼み。じきに遺言となってしまうかもしれないけれど。
「あなたは____」
「心葉大学に入りなさい。そして母さんをバレーの全国大会に連れてってだろ。わかってる」
母さんの言葉を遮るように、僕は吐き捨てた。叶えられる自信のかけらもないような願いを。
これは始めから答えが決まっている問題だ。そして、決して間違ってはいけない問題でもある。
もし、うっかり正解からそれた答えを口にしてしまったら?そのときはどうなるか、僕はまだ知らない。だからこそ、怖い。
いつまでも立ち止まっている余裕はない。まずはスランプから抜け出さないと。
わかってる。わかってる、のに…………。
成功しないサーブとスパイク。それは越えることなく、コートにバウンドしていく。勢いがよくないのか。それとも…………。
その答えはまだ、誰も知るよしもない。
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