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靴紐をきっちりと結んでから、オレンジ色に煌めくコートに立つ。すると目の前に立ちはだかるのは、ネットという高い高い壁。
その向こう側の景色を僕はもう、2年も目にしていない。
児童期からバレーをプレイし続けているはず。なのに、未だに公式戦のコートに立ったことは3回しかないからだろう。
それもあると思う。けれど今は。
無造作にボールを手に取り、サーブを打つ。
それは高さが足りなかったのか、ネットの端にぶつかり、返ってきてしまった。
これはプロのプレイヤーでも、調子が狂った時などによくあるミスだ。
しかし、僕の場合はそうではない。
再度ボールを手に取り、宙へと放つ。
だがやはり、ネットすらも超えてくれない。あまりの下手さに、舌打ちがもれそうだ。
「ピンチヒッターのこと、まだ引きずってんのか?」
そう問いかけながら弾丸のごとく、素早いサーブを打ってきたのは、たった1人の友達かつ幼なじみ・赤木渡。
ポジションは僕と同じウイングスパイカー。攻撃力が高い奴がやる、エース的な役だ。
始めたのは僕より5年も遅い、中2。そのはずなのに公式戦のコートに立った回数は、僕の倍以上。その分、才能は桁違いだ。
その上、183という長身にも恵まれている。僕の168では到底、足元にも及ばない。
部活以外では生徒会に属していて、クラスはおろか、学校中の人気者。風貌もそれなり。整った茶髪もすっと通った鼻筋も爽やかである。もちろん、女子達からはモテモテだ。そんな奴がどうして、はみだしものの僕なんかに構っているのか。それを問うと、幼なじみだからと彼はお決まりように答える。
が、それだけでは理由になっていないような気がするのは、僕だけであろうか。
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