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でも気になるのは気になる。深海の底にいるような、このスランプ状態から抜け出したいのは、山々だから。
「おう。自分がなぜバレーを始めたのか、今なぜバレーを続けれているのか」
どうだったろうか。試しに目を閉じて、過去の記憶を蘇らせてみる。すると始めに思い出せたのは、毎年の体育祭。
徒競走が得意な僕は、当たり前のようにゴールテープを切り、50メートル走も5秒代。リレーの選手に選ばれることも多々あり、去年は崖っぷちから陸上部を3人抜いて、1位を勝ち取った。
その活躍により、自分にはバレーより陸上の方が向いているのではないか。そう、錯覚させられた。
中学の頃から幾度となく、陸上部からの勧誘を受けた。
それでもバレー部をやめて、陸上部に入らない理由。
「それはな…………」
遠慮でも謙遜でもない、もっと違う感じの奴だ。
*
「あなたは心葉大学に通うのよ。そこのバレー部に入って、母さんを全国大会に連れていくの。絶対命令よ。もちろん嫌、なんて言わないわよね?」
お金持ちの美女みたいに偉そうな口調で、母さんは言った。その言葉を聞く度、心の中ではため息が漏れる。
もう何回目だろうか。それは数えたことがない。けれど、物心ついたときからだから、耳にタコができていてもおかしくはない。
生まれつき心臓が弱く、病弱な母さんは成績はいつも学年10位以内。優等生並の学力を維持していた。
しかし、幼い頃からの入退院を繰り返していたせいか、出席日数が足りず、大学への入学は許されなかった。
母さんはその心葉大学にどうしても、入りたかったらしい。
なぜかと問うと、そこはバレー部が全国的に有名。県大会でも毎回のように、優勝を重ねていた。いわゆる強豪校というやつだ。
母さんはそんな、バレー部のマネージャーを努めたい。間近でチームの活躍を観戦するだけでなく、応援やサポートをしたい。そう、淡い祈りを抱いていたそうだ。
ところが、それは叶わぬものとして儚く、散り散りに破れてしまった。
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