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処刑台の周りはひっそりとしていた。
立会人が二人、処刑人が二人の本当に最低限しかいなかった。まるで平民の処刑のよう。しかし、人目につかないようにというのは、伯爵令嬢に対する配慮なのかもしれない。例えそこが暗く汚れた牢の片隅だったとしても。
立会人の一人が朗々とメーラヴィナの罪を並べ始める。
メーラヴィナにはこれらの罪に覚えはない。だが反論の場さえ用意されずにここに連れてこられた。
――……私が処刑されることは、すでに決まっていたのだろう。あの、婚約破棄を宣言された瞬間には。
枯れたと思っていた涙がほほを伝う。
ああ、まだ泣けるんだ、とほっとした。もう表情は動かない。泣きわめこうが笑おうが怒ろうが、嫌な顔をされるだけでいいことなどなにもないのだ。
昔は、どうだっただろうか。子供の頃は笑っていたはずだけれど、もう遠い記憶だ。
言い残すことは、と言われて首を振る。
もう疲れていた。早く、終わらせてほしかった。
処刑人の片方がメーラヴィナを桶の前に跪かせる。もう片方は斧をだらりと垂らすように持っていた。せめて痛くないように、と願う。桶の底は黒々として、何も映していない。私の心を映しているようだと思った。目隠しをされて、背をグッと押される。
自分は天国に行けるだろうか。それとも、天使にも罪人だと言われるだろうか。
そんなことを考えたのが最後。
伯爵令嬢メーラヴィナ・エル・シュタールは、18歳の生涯を閉じた。
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