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「いただきます!」
茶谷さんがメインで作ったツナの和風パスタに、私がメインでちぎったり切ったりしたサラダ。向かい合って食べる夕食は、なんだかとっても温かい。
「茶谷さん、パスタ美味しいです」
「こんなん料理に入らない位、簡単だけどな・・」
「料理できる男の人っていいですね。昔からですか?」
「たまに作ることはあったけど、本格的にやるようになったのは、ここ2~3年かな」
「なんか、心境の変化が?」
私が尋ねた言葉に、茶谷さんの手が一瞬止まった。
「ちょうどさ、赤堀が就活してた頃・・退院した彼女にハッキリと『一緒にいたくない』って言われたんだけど。その頃は毎日、料理して何か食べてもらおうって張り切ってたんだよ。すっかり塞ぎこんでて食欲も無かったから、せめて食べ物だけでもって思ってさ」
「健気だったんですね」
「空回りだったけどな」
茶谷さんの、料理にまつわる悲しい話だ。やっぱり、この人は優しい。
「赤堀を助けた時はさ、俺自身が消えてなくなりたい気分で・・。あの日、電車で喧嘩してる奴らがいたのが分かって近寄って見たら、女の子が被害に遭ってて。あんな奴らより、俺の方がマトモに生きてるのになんでだよって、ついキレて」
「それで、私を助けてくれたんですか?」
「だから赤堀に感謝されるようなことじゃねえの。むしゃくしゃして、八つ当たりしたんだよ、喧嘩してる2人に。突き出してスッキリしようと思って」
「それは、正しい行為ですよ」
「だから、鶴が恩返しに来るようなことは、してない」
「してます!」
茶谷さんが、普通の顔して話している。でも、なんでか泣いているように見えた。
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