184人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの・・私、男の人とこういう事するのが、苦手で・・」
「それは、前に付き合ってた男と何かあったんじゃなくて?」
「すごくつらくなるんです。自分が、別の何かになったみたいな気がして気持ち悪くなるし、多分、茶谷さんにもがっかりされるだけです・・」
「前に何か言われたんだろ」
「私としても、全然良くないって、言われました」
「若いバカが言いそうなセリフだな」
茶谷さんはそう言って、私の頭を撫でた。
「それで、万年フリーか。そりゃ、ちょっと得した」
「得ってなんですか・・」
「ハードル低いから、超えるのが楽だなと」
「・・?」
「幻想しか知らないようなバカに当たったんだよ、赤堀は。だから、赤堀のせいじゃない」
茶谷さんが、軽くハグをしてくれて私の頭を撫でている。今迄で一番、優しい手だ。
「私・・がっかりされて、茶谷さんに嫌われるのは嫌です・・」
「言っとくけど、好きな女にがっかりするような男は、その場で捨てて正解な」
「もしまた、気持ち悪くて怖くなっちゃったら、どうしたらいいですか・・」
「その時は、そう言えば良いんだよ。無理はしなくていいから」
正直、不安がないわけじゃなかった。でも、茶谷さん相手に、惨めになることはないかもしれない。
「・・分かりました・・」
聞き分けが良くなったわけではない、と思う。ただ単に、茶谷さんを知りたくなった。怖さを、好奇心が超えていった。ずっと踏み出せなかった一歩を踏み出すのは、きっと今しかない。怖くないわけじゃないけど、茶谷さんの、ちゃんとした彼女になりたい。
茶谷さんは私の手を引いて、隣の部屋のドアを開けた。
最初のコメントを投稿しよう!