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8-10.悪い男だ
好きな人と、両想いになった。ずっと片想いで、6月が来たらそのまま諦めるつもりでいた人だ。だから、そんな人が私のことを好きになってくれたのなら、ずっと怖くてできなかったことを受け入れるタイミングなんだと思った。
好きな人は、私の傷を知ってか、ずっと心配しながら探るように私に触れた。出掛けた時に何度も繋いだ手は、悪い男の手だと知った。
女の人をよく知っている手だ。それに、長く愛した人がいた気配がした。そんなことが分かるくらいには、ひとつひとつの行為の意味を考えてしまった。
全然余裕なんてなかったけど、
「好き」
だけは、何度も言えた。
「赤堀」「好きだよ」「かわいい」
を繰り返して、私が怖くないように気を配ってくれたから。
私はその言葉と好きな人の姿に救われたのか、最後まで別の何かになったような感覚には陥らなかった。あの「気持ち悪い」おぞましい感覚は、一度も来なかった。何度か力を抜くように諭されて、それでもうまく力が抜けなくて、しまいには冗談で笑わされた。
大好きな人が相手でも、最初からうまくは行かないみたいだ。申し訳なくなって、途中で謝ったり泣きたくなったりした。でも、それ以上に、ここには好きな人の気持ちがあることが分かった。
ああ、私のこと本当に好きなんだ、って、何度も思い知ってしまった。
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