プロローグ ある夜、ちょっとおそまきの流行にのる

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プロローグ ある夜、ちょっとおそまきの流行にのる

 きっかけは真夜中の発作だった。  極度のアレルギー体質で喘息持ち。  花粉にも弱いため、人一倍ハウスダスト対策やきれいな掃除を心がけていたのに。  年度末の業務で一足早い新人教育をしていたせいで自分の仕事が終わらなく、二~三日残業が続いただけだった。  でもその間、花粉対策や部屋の掃除が生き届かなかったのは確かだ。  あまりに物覚えが悪い新人君に疲れ果て、残務を処理して帰宅したのは日付を超えない程度の深夜。  ご飯を食べる気力もなくベッドに倒れこんだところまでは覚えている。  その結果がこれだ。  私の目の前には呼吸困難でもがき苦しんだ末に力尽きた『私』の体が横たわっていた。  ここ一ヶ月手入れを怠ったぼさぼさの髪、吹き出物だらけの額にずりあがったメガネ、コンビニ弁当ばっかり食べてたずんぐりした手足。  涙とよだれでぐしゃぐしゃになった顔面は、見るに堪えない汚さだった。  普通であれば驚き、パニックになるだろうに、意外なほど私は冷静にそれを見下ろしていた。  なんか、肩の荷が下りた気分だったんだ。  何回いってもメモ一つ取らない新人教育、しわ寄せを食う自分の仕事、年度末の予算締め、新年度の準備、会議に電話、取り消された出張、スケジュールを何とかしろという上司、仕事を断ってくる取引先、などなど。  正直もう手一杯な気分で、すべて投げ出したかった。  ひょっとすると今、それがあっという間に叶ってしまったのではないか。  あんなに苦しかったのに、いまは呼吸も楽だし体も軽い。  鉛のように重かった腰も背中も、まるで羽が生えているよう。 ――ああなるほど、つまり、私は今死んでいるんだ。  そう理解した瞬間だった。  ふわっと体が浮きあがったと思うと、すごい力で吹き飛ばされたのだった。
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