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じーさんが死んだ。
100歳の百寿にあと一歩手が届く、99歳で死んだ。もう少しで役場からお祝いがもらえたろうに。
オレにとっては唯一のじーさんだった。
ばーさんもいないので、とうとうオレには祖父母の温もりはなくなってしまった。
いま、オレは親父とふたり暮らしだ。
じーさんの死体を除いては。
親父はじーさんの死をうまく受け止めきれていない。
じーさんの死体を見ようとはせず、いつもそっぽを向いてしまう。
*
親父は働いていない。
30年前からだ。
そんな親父に愛想が尽きたのだろう、おふくろは28年前に蒸発してしまい、オレは会ったことはない。それはオレが生まれて3カ月目であったから、相当付き合い切れないと思ったのだろう。そんな確信がある。
確かに、この世の中、喜んで働いているのは全くの一握りだ。
ただ、じーさんは定年退職まで働き、親父は途中で脱落した。ただそれだけだ。
オレも働くという行動を起こしたことがある。大学時代はバイトを幾つか掛け持ち、就職活動後すぐに内定を勝ち取った。旅行会社だったので、大型連休がある時は、目が回るほどの忙しさはあったが、その時期さえ乗り切ればある程度は自由が利いた。
しかし、この常にアドリブ的な、一本調子に働く仕事ではなかったので、徐々に徐々にバイオリズムが壊れ、朝起きられなくなり、5年後には病院で起立性調節障害と診断された。
そして、やむなく会社を退職した。
その後、オレは職には付いていない。
オレはもうやり切った感があった。
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