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「あの家ではずっと居場所がなくて、分け隔てなく接してくれるのはお祖母ちゃんだけで、そんな中で秀ちゃんだけが私に優しくしてくれて……ちょうど秀ちゃんも大学受験とか色々あって、二人で悩み相談とかしているうちに、一緒に逃げようかって話になって」
「それだけじゃない」
秀一が叫ぶ。
「俺達は誓ったんだ。あの時、二人で海を見ながら。空にいっぱい浮かんでた沢山の星だって、俺は全部覚えてる。そうだろ菜々。菜々だって忘れたわけじゃないだろ。ちゃんと全部言えよ。こいつに思い知らせてやれよ」
菜々が涙に濡れた目で俺を見上げた。
「ずっと……一緒にいようねって。これから先も、二人で生きて行こうって、約束を……」
最後まで言えず、菜々はその場に崩れるようにして膝を突いた。両手で顔を覆って、押し殺したような泣き声をあげる。
俺は目を閉じ、深く息を吸った。けど、胸の中のわだかまりは消えるはずもない。
駆け落ちして、幾つもの夜を共にし、将来を誓い合う二人の姿が脳裏をチラついて離れない。
正直、ショックだった。
初めて会った時は、何も知らない、小さな子どもみたいに無垢な子だと思ったのに。
菜々にそんな過去があっただなんて、こうして彼女自身の口から聞かされても、現実味がなかった。
「そういう事だ。これでわかっただろ? 菜々は俺と一緒に帰るんだ。俺達はずっと一緒にいようって、約束したんだから」
勝ち誇る秀一の言葉に首を振り、俺は菜々に手を伸ばした。その頭に、ぽんと手を置く。
「菜々ちゃん……よく頑張ったね」
弾かれたように、菜々が顔を上げる。
「言いたくなかったよね。辛かったよね。ありがとう、言ってくれて。菜々ちゃんは本当に……よく頑張ったよ」
「森田さん……」
菜々の大きな瞳から、ぽろぽろと涙があふれだす。俺は愛おしむように、彼女の頭を撫でた。
「菜々……」
呆然とする秀一に、俺は言った。
「なぁ、もうやめにしてくれないか」
「なんだと?」
「もうわかっただろ? あんたがどんだけ嘘を重ねようと、過去を蒸し返そうと、誰も幸せになんてなりやしないって。あんただって辛くなる一方じゃないか」
「そんな事……」
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