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「それとも、菜々ちゃんに言わせたいのか? はっきりと言葉にして貰わないとわからないのか? 後悔してるって。なかった事にしたいって。こんな風になっても菜々ちゃんは、あんたを傷つけないように、精一杯気を遣って話してくれてるんじゃんか」
「…………」
秀一はぎゅっと拳を握りしめた。
「なぁ、あんたあと幾つ嘘ついてるんだよ。大学行ってないってのも嘘だったんだろ? さっき、あんたの親父が言ってたぜ。もうすぐ後期が始まるって」
ぎくり、と秀一は身を震わせた。
「そ、それは……その……そうでも言わないと、菜々が……。俺は、どうしても菜々を連れて帰りたかったから……」
「どうせ他にもあるんだろ。全部ちゃんと言えよ。菜々ちゃんはこうして全部俺に話してくれたんだ。あんただけ嘘で塗り固めて、卑怯だとは思わないのか」
俺の言葉に同調するように、菜々が恨めし気に秀一を見る。
「く……」
言葉に詰まった秀一は、顔を背けるようにして地面に叫んだ。
「仕方ないだろ! 菜々だってわかってるじゃないか! 父さんの言う事は絶対なんだ! でも嘘なんかじゃない! 菜々が戻って来てくれたら、二人で力を合わせれば、全部ちゃんと言った通りにできるはずなんだ。なぁ、そうだろ菜々? 俺達が力を合わせれば、なんだって……」
「わからない」
菜々は悲し気に首を振った。
「私、わからないよ、秀ちゃん。秀ちゃんこそ本当はわかってるんでしょ? 秀ちゃんは、どうしたいの? 私がいるとかいないとか、そんなのは何も関係ない。秀ちゃんがどうするかは秀ちゃん自身の問題のはずだよ。自分の進みたい道があるなら、ちゃんと叔父さんとお話ししなよ。私は、秀ちゃんの逃げ道には使われたくない」
「逃げ道って、そんな……」
よっぽど確信をついた発言だったのか、秀一は返す言葉を失って、全身をわなわなと震わせた。
「……くそっ! 絶対、絶対思い知らせてやるからな! 俺は逃げてなんかない! 一人だってちゃんと、菜々との約束を守って見せるから! ちゃんと見とけよ!」
秀一は雄たけびのように咆哮し、踵を返して走り去っていった。
後には降り注ぐような蝉の鳴き声と、菜々のすすり泣く声だけが残された。
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