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もしかしたら外出しているのかもしれない。ちょっと傷ついたからといって部屋に閉じ困ってられる俺とは違い、菜々は自分で行動しなければ食事すらままならないのだから。そう思うとさらに罪悪感が募った。何もせずに落ち込んでいられるだけ、俺の方がマシなのかもしれない。
どうしたものかと迷い始めた頃――カチャリ、と鍵の回る小さな音がして、ドアが内側からそろそろと開いた。
「菜々ちゃん」
「森田さん……どうして」
菜々の目には、驚きの色だけがあった。
「どうしてって……様子を見に来たんだけど、迷惑だったかな?」
「い、いえ、そんな事は……。ちょっと待ってください、今、出ますんで」
妙にあたふたとして、細い隙間から身体を出したかと思えば後ろ手にドアを閉める。明らかに怪しい。何かを隠してるような気配がプンプンだ。
ずっと部屋にいたのだろう。髪の毛は結いもせず、部屋着のTシャツと短パンのままだった。
「中に誰か、いるの?」
「そ、そんな。誰もいません。ただ、散らかっちゃってるから」
うろたえる菜々に今までにないよそよそしさを感じて、チクリと胸が痛む。
「少しは気分、良くなった?」
「少し、ですけど……森田さん、残ってたんですね」
「残ってたって?」
「おじさんとおばさんと山梨に行ったのかと思ってました」
「そんな……行くはずないじゃん」
愕然として、つい口調が荒くなる。あれだけ花火大会に行こうと約束していたのに、何も言わずに反故にして、菜々を置いて山梨に行くなんてそんなはずがないじゃないか。
「ずっと心配してたんだよ。一人でどうしてるだろうって」
「私だって、森田さんが怒ってるんじゃないかって、心配してましたし……」
「怒る? そんなはずないだろ。さっきからどうしたんだよ、菜々ちゃん。何かおかしくないか?」
「どうしたって……」
菜々の表情が曇る。
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