8.花火

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   ※     ※     ※  短い三日間ばかりのお盆休みが明け、親父とお袋が長野から帰って来るとともに、自由軒は再び営業を再開した。  そこへまたまたやってきた珍しい客に、またしても菜々は目を丸くした。 「お祖母ちゃん!」 「いつもうちの菜々がお世話になってます。前に聞いたところによると、とても良くして下さっているそうで。この子にはこれといって身寄りと呼べるような人間もいないもので、せめて私が一言挨拶をと思いましてね」  汗を拭き拭き丁寧に礼を述べるのは、今年八十になるという菜々の祖母だった。 「どうしてここに! まさか一人で来たの? 身体、大丈夫なの?」 「おかげ様でね。菜々の方こそ、元気にしとったかい? すっかり耄碌して、風邪引いただけで大騒ぎされる歳だと思い知らされたよ」  だからこそ元気なうちにやれる事はやっておこうと、こうして一人新幹線に乗ってやってきたのだという。 「キヨちゃんに会えるのも今の内かもしれないからね。どっちがぽっくり行ってもおかしくない歳だから」  少し腰は曲がっているものの、そう大笑する様子はかくしゃくとして、まだまだそんな心配はいらないぐらい元気が有り余っていそうだ。 「本当にお元気で。うちの母にも見習わせてあげたいわ。先日お盆に帰省したら、夫を亡くして女やもめの一人暮らしだからって散らかしちゃって。本当羨ましい」  お袋も、菜々を一番可愛がってくれているお祖母ちゃんだと聞き、下にも置かない歓待ぶりだ。 「先日はうちの息子と孫がご迷惑をお掛けしたようですみませんねぇ。花本の家の男というのは昔から融通の利かない人間ばかりだと地元でも評判なんですよ。本来であれば親代わりの吉秀がすぐにでもご挨拶に伺わなければならないというのに、多忙を理由にして蔑ろにしてばかり。このババの顔に免じて、どうかご容赦を」  祖母は丁寧に頭を下げた。その様子に、厨房の親父まで礼を返さずにはいられない。
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