8.花火

16/18
前へ
/157ページ
次へ
「今日は色々とこのババの口から、言い訳めいたご説明でもさせていただこうと思って出向いて参りました。良い機会だから、菜々の耳にも入れておきたいと思いましてな。まだ子どもだからと伏せてきましたが、菜々ももう十七ともなれば理解してくれるものでしょう」 「説明って?」  虚を突かれたように、菜々が身を乗り出す。 「お前の母親の話だよ。いや……お前の母親と、父親兄弟の話と言った方がいいか」  言い添えた後、祖母は再びお袋と親父に向き直った。 「吉秀……菜々の叔父のやり方には色々と理解し兼ねる部分もあったかと思いますが、あの子にはあの子なりの事情もありますもので、私の口から一つ弁明を。この歳にもなって親馬鹿かと、どうかお笑い下さいな」  そうして祖母は、昔話のように花本家の過去について語り始めた。  花本の家は代々続く弁護士の家系であり、菜々の父・吉一は跡取りとして花本の家を継ぐ事を約束された長男だった。  しかし吉一が菜々の母・華と駆け落ちを遂げた事で、吉一は花本の家から勘当。急遽弟の吉秀が家督を継ぐ事になった。  当時の吉秀はまだ大学生で、ロケットエンジニアを目指して航空系の学部へと通っている矢先の出来事だった。叔父はやむなくエンジニアの道を諦め、法学部系の大学を再受験。心機一転弁護士を目指す羽目になった。 「吉秀は何一つ不平不満を漏らさず、花本の家のために苦しい選択を強いられました。あの子も元々は心の優しい子なのです」  出奔した兄のために、自分の夢を諦め尻拭いをさせられた叔父の気持ちは察するに余りある。そうは言っても、だからといって菜々を疎外する理由にはなり得ない。それだけでは、これまで俺達が聞いてきた説明とさして変わるところもないではないか。 「ここから先は、菜々にも初めて話す内容です。吉秀が吉一に奪われたものは、エンジニアの夢だけではありません」  俺達の疑問を予想していたように、祖母は言った。
/157ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加