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エピローグ
再び訪れた春――三人で通っていた通学路には、メンバーが一人増えた。
「ねえ、ちょっと制服ぶかぶか過ぎない? ネクタイってそんなヘロヘロにしか結べないの?」
真新しい制服に身を包んだ雄介の横から駄目出しを繰り返すのは有純だ。
「一年の時はこんなもんだろ。でかくなってもいいように、制服屋がわざと大き目に作るんだよ」
「それをうまく着こなすのがセンスの見せどころじゃない」
雄介が受験勉強に勤しむ間も、細々とではあったが関係は続いていたらしい。晴れて俺達と同じ高校に入学が決まったものの、有純の口ぶりは恋人というよりも弟に対するそれだ。まだまだ雄介の前途は険しい。
ぶつくさ言いながら虎山の坂を下りて行くと、おばけいるぞうの看板の前に菜々の姿が見えてきた。こちらもセーラー服からようやくブレザーに買い替えたばかりだ。同じ新品でも、菜々はジャストサイズでとてもよく似合っていた。
「おはよー」
ぽかぽかした日差しみたいに柔らかな声で手を振る菜々に、手を振り返す。
初めて虎山駅で出会った時の彼女はおどおどとして不安の塊みたいだったけれど、今となってはすっかり町の風景に溶け込んで見える。三年生にしては妙に清潔感のある制服のせいで、どこぞのお嬢様みたいだ。
「何やらしい目で見てんのよ、ド変態」
「ば、馬鹿、そんなんじゃねえよ。ただ……やっぱり可愛いなぁと思ってさ」
「あんたねぇ、元カノの前でそういう事言う男がどこにいんのよ。あたしに一度だってそんな誉め言葉掛けてくれた事あった?」
蹴りかからんばかりの勢いで食ってかかる有純に、菜々がクスクスと笑う。すると隣から、雄介がおずおずと口を開いた。
「有純ちゃんは可愛いって言うか、綺麗だから……」
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