17人が本棚に入れています
本棚に追加
「あの」
「あ、はいっ!」
ビクリ、と雷に撃たれたように飛び上がり、女の子が振り向く。
「これ金入ってないんじゃないですか? チャージしないと」
「えっ!」
彼女は目を見開き、逆に問い返して来た。
「チャージって、何ですか?」
唖然呆然とはこのことだ。
後ろを見ればすでに長蛇の列。助けを求めて窓口の駅員を見やるも、あっちはあっちでよぼよぼのじいさんに掴まって困っている様子。
まいったなぁ。この電車を逃したら間違いなく遅刻確定なんだけど。
俺は小さく息をついて、彼女に言った。
「とりあえず、後ろに譲ろうか。みんな待ってるし」
「えっ……あっ! た、大変っ!」
後ろを待たせている事には気づいていたのだろうが、ここまでの行列に発展しているとは思いもしなかったのだろう。すみません、すみませんとぺこぺこ頭を下げまくる彼女を俺は壁際の切符販売機へ連れて行った。
肩甲骨ぐらいまである長い黒髪は艷やかで、どことなくぽーっとした印象ではあるものの、目鼻立ちのはっきりした可愛らしい子だった。クラスのやつにでも見つかったら後々面倒くさい事になりそうだが、この時間にまだ駅でグズグズしてるやつは皆無だろう。
彼女のICカードは予想通り残高ゼロで、俺が仕組みを説明すると「要するに電子マネーみたいなものなんですね」とふんふん頷いた。いや、電子マネーそのものなんだけどね。わかってんのかな、ホントに。
最初のコメントを投稿しよう!