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「これがあれば電車に乗れるからって渡されて、その時は普通に使えたので。てっきり何回でも使える定期券みたいなものなんだとばかり」
どこから来たのかわからないが、その人はきっとその時の片道分だけチャージしてくれたんだろうな。まるではじめてのおつかいだ。
「定期がついてるのもあるけど、これは普通のカードだから使う時はチャージしないと。お金、持ってる?」
「あ! え、ええと確か……ちょっと待ってくださいね。この辺に……」
ごそごそと背中のリュックを漁り、彼女が取り出したのは剥き出しの千円札だった。財布も持ってないのか、と驚くのを通り越して呆れてしまう。
それにしても……気になるのは彼女が着ている制服だ。白地に紺のラインが入ったセーラー服なんて、この辺りでは見た事がない。どこかの学校の新入生かとも思ったけれど、それにしては制服に張りがないし。
決してくたびれてるとか汚れているというわけではないが、新入生特有の制服に着られているようなちぐはぐさが感じられない。とすると、一年生ではないんだろうか。
見慣れない制服と、電車の乗り方もよくわかっていないところから察するに……まるで群れからはぐれた修学旅行生みたいな雰囲気だ。
「今度は大丈夫だと思うよ」
無事チャージを終えた後は、不安げな彼女を連れてもう一度改札機へ。軽快なチャイムが鳴って、フリップドアが無事開いた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ……」
ぺこりと頭を下げる彼女に別れを告げようと、挙げた手が空中で止まる。この子、このまま放り出しても大丈夫なんだろうか。
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